信用金庫への提案
4月1日、東京都品川区に本社をおく城南信用金庫理事長が「原発に頼らない安心できる社会へ」と題した声明文をホームページに掲載し、その後も声明文に添うかたちで預金者の節電を応援する新商品やサービスを展開し注目を集めています。僕も城南信用金庫理事長のインタビューや出演されているインターネット放送番組を視聴したり、地元信用金庫(京都北都信用金庫)の方々と話をするなかで、その「脱原発宣言」は、信用金庫が掲げてきた基本理念・経営の基本・ビジョンを軸としてなされたことだと理解することができました。
本稿では、社会的使命・役割の達成に向けて「地域社会繁栄への奉仕・中小企業の健全な発展・豊かな国民生活の実現」の3つのビジョン、「地域で集めた資金を地域の中小企業と個人に還元することにより、地域社会の発展に寄与する」という目的を掲げる信用金庫へ対する提案について書き留めておきます。
僕の提案は、全国のいくつかの基礎自治体で実施されはじめている「地域内分権」に関連しています。地域内分権とは、地域の課題を迅速かつ効果的に解決するために、地区住民が「自分たちの地域は自分たちでつくる」という意識を持って活動し、その活動を積極的に支援していく仕組みのことです。地域内分権に則した仕組み作りのアプローチは多様であり、今後も多様化していくだろうと思われます。以下、長野県飯田市を事例の一つとしてご紹介します。
飯田市では、平成19年4月1日に自治基本条例が施行され、地域自治組織が導入されました。前者は、住みよいまちづくりをスムーズに進めるためには、市が行おうとする施策の決定や、既に行った事業の評価に対し、市民の意見を反映することや、事業を行う際に市民の参加を募ることが重要となり、こうした市政への参加が着実に進められるために必要な仕組みを条例化したものです。また後者は、さらに住民自治を拡充、地域の特性を活かした活力ある地域づくりを推進するために導入され、行政が地域住民の身近なところで住民に身近な事務を住民の意向を踏まえて効果的に処理することなどがその目的とされています。
私が特に注目したのは、後者の地域自治組織の導入についての取組みでした。仕組みとしては、3つの機関、自治振興センター(支所機能の一部)、地域協議会(市の諮問機関)、まちづくり委員会(住民組織)が中心となっています。そして、自治組織の導入の目的(地域の今日的課題に対応できうる各種団体の活動及び行政の支援体制の構築により、住民同士の連携・協力による総合的な地域づくりの推進など)に照らし合わせると、この組織で重要な役割を期待されるのは、まちづくり委員会の活動だと言えると思います。
まちづくり委員会は、各委員会ごとに、5つの部会(生活安全・環境保全・公民館・地域振興・健康福祉)に分かれて、地域の方々とのつながりを土台として様々な活動が行われています。運営費は、市からの一括交付金(20委員会で1億円の予算)と会費(各委員会ごとに決定、1,400円〜16,500円)で構成されており、自治組織の加入率は約60%〜100%となっております。実施されている事業としては、防犯パトカーを購入したり、新しく転居してきた家族に対して支援金を交付していたりするようです。
*あるまちづくり委員会では、年間4000万円を超える予算を管理・運用しています。
(与謝野町議会:山添藤真)
この施策を担当する市職員は、「毎日が試行錯誤の連続です」とおっしゃっていましたが、僕にはその「試行錯誤の連続」に大きな可能性を感じています。なぜならば、地域内分権に関連する施策を講ずることで、住民組織(まちづくり委員会)が動員型からテイクオフし、一定の創造性をもつ活動組織として、地域社会の前景に立ちあらわれているように思えるからです。
僕の信用金庫への提案は、このような地域内分権の受け皿になりえる区や自治会など(飯田市の場合であれば、まちづくり委員会)の「資産の管理・運用」に積極的に関与していくというものです。今後、全国の基礎自治体で地域内分権の考え方に則した施策が推進されていくならば、飯田市のまちづくり委員会のように数千万単位で資産を管理・運用する政治的な最小単位である区や自治会などが増加していくことだろうと思います(ちなみに、現在の区・自治会費などの管理・運用に関しても再考しなくてはいけないケースは多くあります)。その際に、前述したような基本理念やビジョンを掲げる信用金庫が担えるだろう役割は少なくないと思うのです。